メディア紹介履歴
【"コメ作りに海水活用" 「甘くて粘り」好評】河北新報(2010.8.28 土曜版)
(写真左)石巻市から約1時間をかけて運んだ海水を田んぼに流し入れる阿部社長(左)=8月17日
(写真右下)海水を入れた田んぼで生育具合を確認する阿部社長=8月18日
海洋深層水を田んぼに入れ、良質米を作っている富山県の農家の存在を知ったのがきっかけ。「当初は海水を入手する手段が分からず、しばらく思いだけにとどまっていた」と阿部善文社長(43)は振り返る。
知人から石巻市の水産業者の紹介を受け、海洋深層水ではないが海水を用いたコメ作りを2006年に始めた。
海水を水田に入れるのはおおむね出穂の前後。阿部社長は「前例がほとんどなく、時期や量、回数などを変えながらベストな条件を探っている」と語る。
今年は出穂後の8月17日と25日の2回、業者に石巻湾でくみ上げてもらった計3トンの海水を農業用水と一緒に、ひとめぼれの田んぼ60アールに流した。塩分濃度3%の海水をそのまま入れると稲が枯れてしまうため、用水に混ぜて約1%に薄めている。
海水を加えた田んぼは、最初は周囲の水田と変わらないが、稲の青々とした状態が長く続くという。そのため、ほかの田んぼより半月ほど稲刈りが遅く、今年は10月中旬の予定だ。
この海水米は「三陸の煌(きら)めき」というブランド名が付けられた。海水の調達に協力した知人が仙台市で営む海産物卸売会社「三陸オーシャン」を通じカタログ販売しているほか、5キロ3150円で直売。2006年度県林産物品評会の食味部門で第2席に選ばれ、消費者からの反応も上々だ。マグロ丼を提供する塩釜市の食堂にも供給している。
海水を利用した稲作に着目した愛媛大農学部の上野秀人准教授が今月16日~18日、阿部社長の自宅に泊まりながら調査を実施。海水が根の養分吸収に与える影響や、葉の光合成でつくられた糖分が実に送り込まれる速度などを調べ、科学的側面から海水米のうまさを検証する。
上野准教授は「温暖化の影響で穂が充分に実らないケースが全国で増えているが、板倉農産の実はきれいだ。その理由を解明し、今後のコメ作りに生かせるものになれば」と語る。
水産業者とのつながりを生かし、板倉農産は病害虫防除のため、焼いたカキ殻を木酢液で溶かし田んぼに散布している。カキ殻に含まれるカルシウムなどの働きで、稲の抵抗力を高めている。ほかにもカキ殻を土中に埋設し、水質浄化に活用するアイデアもある。
これまでにも米ぬか除草やアイガモ農法など、農薬や化学肥料に頼らないコメ作りをいち早く取り入れてきた。「田んぼに入れた海水の一部は川を通って海に戻る。環境面からも稲作農家が海について考えることが必要」と阿部社長。広い視野で農業の未来を見つめている。